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東京高等裁判所 昭和36年(ネ)600号 判決 1963年2月06日

控訴人 信戸智利雄 外二名

被控訴人 国 外二名

訴訟代理人 板井俊雄 外四名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事  実 <省略>

理由

第一、所有権確認を求める請求について

当裁判所も、審究の結果、控訴人らの本訴請求のうち本件各土地が被控訴組合の所有に属することの確認を求める部分は、法律上即時確定の利益を欠き、不適法として却下を免れないものであるとの結論に到達した。その理由は、次に補足訂正するほか、原判決の当該説示(原判快理由一および二)と同一であるから、ここに右説示を引用する。(月報七巻三号四二頁以下参照)

(補足訂正理由)

(一)  原判決一六枚目(記録五二五丁)表四行目から五行目に、「後記認定のように原告らと被告組合との間に右専用契約を締結された事実はない。」とある部分を次のとおり改める。

「しかし、農業協同組合法(以下、単に法という)第一九条第一項の定めた『組合施設の専用契約』とは、組合員において専ら当該組合の施設のみを利用し、第三者の施設脅利用しないことを内容とする契約を意味するのであつて、組合員の個人的独占的使用を内容とする契約を意味するものではないのである。つまり同条項所定の契約は、本来、組合の経営の一安定を図ることを目的とするものであつて、直接にはなんら組合員の利用権の確保を目的とするものではないのである。されば本件において、控訴人(原告)らが、法第一九条第一項を援用し、本件土地について控訴人らが同条所定の専用契約に基く使用収益権を有する旨主張しているのは、同条の趣旨を正解しない議論であるといわざるを得ない。しかし、他方にこの点に関する控訴人らの主張を弁論の全趣旨に照らし有意義に解するときは、控訴人らとしては、要するに、『控訴人らは、昭和二七年三月中本件土地につき被控訴人(被告)組合との間に賃貸借類似の契約を締結したので、右契約に基き本件土地の使用収益権を有する』という事実を主張せんとする意思に外ならないと認め得るから、以下控訴人らの主張を右の如き趣旨であると解した上、その当否について検討する。

成立に争のない甲第二号証(被控訴組合の定款)と法第一〇条第一項の規定を対照して考察すれば、被控訴組合においては組合員の事業または生活に必要な共同利用施設の設置が、その事業目的の一とされていることが明らかである。しかして、かように利用施設の設置が事業目的の一とされている組合においても、組合員が当該組合の施設たる特定の土地を現実に排他的に使用収益し得るためには、組合との間に、その具体的な使用に関し契約を締結することを要するのであり、しかも、かかる契約としては、有償契約たる賃貸借のほか、無償契約たる使用貸借等各種の場合があり得ることはもちろんであつて、右の如き利用関係は常に必ず賃貸借ないし賃貸借類似の関係に限られると解すべき法律上の根拠はなんら存在しないのである。

ところで、原審証人野原平、同国安秀夫、当審証人半藤広行の各証言、並びに原審における原告(控訴人)信戸智利雄および被告(被控訴人)組合代表者土肥繁各本人尋問の結果によれば、被控訴組合は、従前本件(イ)の土地を被控訴組合の事務所敷地として、同(ロ)の土地は共同作業場として、控訴人ら三名を含む一般組合員に対しその利用を認めて来た事実、同(ハ)(ニ)(ホ)の各土地については、被控訴組合は昭和三七年三月頃以来、採草地として、(ハ)の土地を控訴人信戸に、(ニ)の土地を控訴人刈屋に、(ホ)の土地を控訴人川崎に、それぞれこれが独占的使用を許して来た事実が認められるが、しかし右各土地の使用については、使用料支払の約定があつた事実を認めるに足りる証拠はない。尤も前記各証拠によれば、控訴人らは、被控訴組合に加入後、被控訴組合に対し或る程度の金員を支払つた事実のあることは認められるけれども、右各証拠と前記甲第二号証および弁論の全趣旨と対照して考察すれば、右金員の支払は、控訴人らが組合員であることの一般的地位に基き、組合に対する出資ないし組合経費の負担の趣旨でこれを出損したものであり、なんら特別にこれを本件土地使用の対価として授受したものではないことを推認するに足り、結局、本件に顕われたすべての資料によるも、未だ本件土地につき控訴人らと被控訴組合との間に控訴人ら主張の如き賃貸借類似の契約が締結された事実を肯認するに十分でない。

かえつて前記各証拠および弁論の全趣旨によれば、控訴人らの本件各土地の使用関係は賃貸借ないし賃貸借類似の契約によるものではなく、精精使用貸借の範囲を出でないものであると認められ、しかも、かかる使用貸借関係については被控訴組合において、遅くも昭和三二年一一月一日控訴人らに対する被控訴組合の本件答弁書の送達(右答弁書送達の事実は記録上明白である)によつて、暗黙にこれが解除の意思表示をなしたものと認められるから、これにより右使用貸借欄係は終了に帰したものと解するほかない。

されば結局、本件土地につき控訴人らと被控訴組合との間に賃貸借類似の契約が締結され、右契約に基き控訴人らが本件土地の使用収益権を有するという控訴人らの主張は、採用に由ないものである。」

(二)  原判決一七枚目(記録五二六丁)裏六行目から同九行目までの部分を次のとおり改める。

「しかして、本件においては、他に、控訴人(原告)らが本件土地につき直接かつ具体的な権利を有するものと認めるに足りる適確な資料はなく、結局、控訴人らは、本件各土地が被控訴組合の所有に属することの確認を求める利益を欠くものといわなければならない。」

第二、控訴人らが本件土地の、使用収益権を有することの確認を求める請求について、

次に控訴人らは、「昭和二七年三月中控訴人らと被控訴組合との間に締結された契約に基き、控訴人らは本件土地の使用収益権を有する」旨主張し、本訴において、右権利の確認を求めるというのである。

ところで、被控訴人らは、右請求についても確認の利益がない旨抗争するが、しかし控訴人らの主張によれば、控訴人らの右使用収益権は被控訴組合に対する契約上の権利に外ならないのであるから、当該契約の相手方たる被控訴組合が右権利の存在を争う以上、その者との関係においては、これが確認を求める利益のあるこというまでもない。他方、被控訴人国は第三者にすぎないけれども、控訴人らの主張によれば、被控訴人国は、本件土地につきなんらの権利がないのに拘らず、控訴人らの前記使用収益権を侵害しているというのであり、今、仮りに控訴人らの右主張事実が是認されるとすれば、控訴人らは被控訴人国に対し、少くとも被控訴組合に代位して右侵害の排除を求め、また債権侵害を理由として直接不法行為の責任を問い得る立場にあるわけであるから、被控訴人国に対する関係においても、前記使用収益権を有することの確認を求める利益があるものというべきである。それ故、この点に関する被控訴人らの抗弁は採用し難く、右請求は適法といわなければならぬ。

しかしその本案については、控訴人らが本件土地につきその主張の如き使用収益権を有するという事実の肯認できないものであることは、さきに詳細説示したとおりであるから、結局、控訴人らの右請求は理由がなく、棄却を免れないものというべきである。

第三、結論

以上の次第であるから、控訴人らの本訴請求中、所有権確認を求める部分については訴を却下し、その余の部分については請求を棄却した原判決は結局相当であつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却すべきである。よつて控訴費用につき民事訴訟法第八九条、第九三条、第九五条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 牛山要 田中盈 土井王明)

控訴人ら代理人の準備書面

使用収益権の設定について

一、本訴請求にかかる土地の中(イ)、(ロ)の各土地(字二一九番同二三三番の二)は昭和二七年九月一日に、その余の(ハ)(ニ)(ホ)の各土地(字八九番、同一七二番)は昭和二五年二月一日にそれぞれ政府より被告組合あつて払下げられたものであり、(ハ)(ニ)(ホ)の土地は、このとき一括して払下げられた合計二一町六反歩余の余剰採草地砂一部である。

右土地の払下後被告組合員中よりその利用範囲を区分特定し、特定組合員のみが特定土地を利用することが便宜だから、採草地を区分しようという要求がおこり組合総会にはかつたところ、異議なく承認決議を見た。その具体的な実行には各班より選出された配分委員が当配分委員の区分には不満を云はないこととされた。かくして選出された配分委員は土地の良否、その他の条件を考慮した上、組合員の頭数で公平に分配した区分案を作成し、昭和二七年三月八日の組合総会に報告した結果、各組合員の採草地に対する利用範囲が特定したのである。

二、右の経過によつて組合と各組合員との間に農協法一九条、組合定款五六条一項に基く専用契約が成立したと解される。(この専用契約は昭和二七年事業年度より行はれ、その後更新されて今日に至つている。)

何となれば抑々農業協同組合の目的は組合の施設を組合員に利用させることによつてのみ達成できるのだから組合員は組合の事業を利用する権利を有する反面組合の施設を利用しなければならない義務を負うのである(定款一五条一号参照)

而して組合員は平等な権利義務を有するから組合有地の一部を特定組合員のみが利用することは原則として許されず特別な場合にのみ許されるのである。

この特別な場合とは法及び定款が認める専用契約以外には考えられない。従つて組合員が組合名義の土地を排他的に利用している事実があれば専用契約の成立を推定すべきものである。

又、右定款五六条二項は契約の内容及び方法については各業務規定で定めると規定しているが、現在迄そのような業務規定の定めがないから、専用契約の内容及び締結の方法については組合総会の議決により定まることになる。前記二度の総会はこの様な契約内容方法を決めるとともに契約締結の場を提供したと解される。即ち、前記総会において各組合員は共益権たる議決権の行使によつて専用契約の内容及び始期、締結の方法等をきめ、つぎに組合員は自益権の行使として右総会において決定された内容の専用契約を任意、組合と締結したと解すべきである。

このように組合員は総会の席上一方組合総会構成員として他方組合員として行動したため専用契約の契約性を意識しなかつた者もあろうが、法律上的には右の如き経緯で専用契約が成立したものと解さざるをえない。又専用契約は組合対組合員の法律関係であつて第三者に主張乃至対抗しうることを必要としない。

以上

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